「やっぱり、馬子にも衣装よ」

それを見送りながら、香也子は呟いた。
「やっぱり、馬子にも衣装よ」
香也子は自分の着ているクリーム色のワンピースを眺め、この色が自分にいちばん似合うと思った。あと二十分後に章子の恋人がくる。英語塾には、若い女性も何人かは通っている筈なのに、章子という目立たぬ女性を選んだ金井という青年に、香也子は興味を持った。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 物語を〈聴く〉という、発見  田中綾

  2. その時、階段に静かに足音がして恵理子が茶の間にはいってきた。 「あら、もう三時? おばあちゃんお帰りなさい」

  3. 「おばあちゃん。わたし、お母さんのいうことわかるわ。わたしだって香也ちゃんやお父さんが懐かしいわ」 恵理子が助け舟を出す。

  4. 「ああ、ああ、いつきてもいい丘だなあ、ここは。こぶしほころび、桜咲きか……」

  5. 「ねえ、わたしたち三人は、水入らずよね。血が通っているんですもの。章子さんや小母さんとは、ちがうわよねえ」

  6. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」