「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」

「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」
不意に香也子は笑いだし、
「金井さんて、どんな方かしら。わたしにも紹介してね」
と、甘えるように、章子と扶代を見た。
「もちろんよ」
章子はうなずいた。
「ごめんなさいね、章子さん。馬子にも衣装だなんて。わたし、ちょっと怒ってたもんだから。ほんとはよく似合うわよ」
香也子は愛らしく首を傾けて見せる。ひどく素直な表情だ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 恵理子の立つ、川一つ隔てたこの道には、

  2. 香也子は椅子ごと、ぐいと扶代と章子のほうを向いた。

  3. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  4. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  5. 「少し白髪が……」と、保子はやさしく容一を眺めた。

  6. 人々の視線は、再び茶席に戻っている。