「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」

「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」
不意に香也子は笑いだし、
「金井さんて、どんな方かしら。わたしにも紹介してね」
と、甘えるように、章子と扶代を見た。
「もちろんよ」
章子はうなずいた。
「ごめんなさいね、章子さん。馬子にも衣装だなんて。わたし、ちょっと怒ってたもんだから。ほんとはよく似合うわよ」
香也子は愛らしく首を傾けて見せる。ひどく素直な表情だ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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