「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」

「あら、そう。まだ恋人ってわけじゃないの。そうなの」
不意に香也子は笑いだし、
「金井さんて、どんな方かしら。わたしにも紹介してね」
と、甘えるように、章子と扶代を見た。
「もちろんよ」
章子はうなずいた。
「ごめんなさいね、章子さん。馬子にも衣装だなんて。わたし、ちょっと怒ってたもんだから。ほんとはよく似合うわよ」
香也子は愛らしく首を傾けて見せる。ひどく素直な表情だ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 二人は顔を見合わせて、椅子に腰をおろした。 「これで第一関門はパスしたようだね」

  2. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  3. 「もうぼくに用事がなければ失礼します」西島はきっぱりといった。

  4. 「ここの中華料理はうまいね。実はこの前の日曜日、うちに客があってね。中華料理の手づくりをご馳走したんだ。それが意外とうまくてね。お前たちに食べさせてやりたいと思ったもんだから……」 「どなたがおつくりになったの」

  5. いつも家の中で洋裁をするか、祖母のお茶の稽古の手伝いをするだけの恵理子の生活は、ほとんど異性に接する機会のない生活だった。

  6. いい終わらぬうちに、ドアをノックしてはいってきたのは、香也子だった。