つんとする香也子に、容一はいった。
「鈍感で申しわけない。なるほど、なるほど」
容一は、扶代からそれとなく金井政夫のことは聞かされていた。だから今日の金井の来訪は、容一にとってごく自然なことだった。
「ごめんなさい、香也ちゃん」
章子はうつむいたまま、
「でも、まだおつきあいしてるっていうだけで……お知らせするほどの間柄じゃないんですもの。昨日、お父さんとお母さんに紹介してほしいっていわれて、わたしだってびっくりしたくらいなんだもの」
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集