「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」  わざと香也子は無邪気にいう。

「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」
わざと香也子は無邪気にいう。
「香也子、馬子にも衣装とはね、本来は、大したことはないが、着物で引き立っている場合に使う言葉だよ」
とりなすようにいう容一に、
「そうよ、わかってるわ」
「わかっちゃいないよ。それは面と向かって人にいう言葉じゃない。自分のことをいうか、あるいは陰でいう言葉さ」
「ああ、じゃ陰でいうわ」

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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