「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」  わざと香也子は無邪気にいう。

「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」
わざと香也子は無邪気にいう。
「香也子、馬子にも衣装とはね、本来は、大したことはないが、着物で引き立っている場合に使う言葉だよ」
とりなすようにいう容一に、
「そうよ、わかってるわ」
「わかっちゃいないよ。それは面と向かって人にいう言葉じゃない。自分のことをいうか、あるいは陰でいう言葉さ」
「ああ、じゃ陰でいうわ」

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. それにしても、女の命は見目形であろうか

  2. 香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。

  3. 「まあ、すてき!」 崖ぶちのあずまやにはいった香也子が叫んだ。

  4. この川を隔てた向こうは

  5. 「混むかねえ、この天気だと」

  6. 「大変な人ねえ」 扶代が楽しげにいった。