『塩狩峠』と出会って  星野富弘

病院のベッドに寝た切りになって二度目の春を迎えた時だった。スキーで足を骨折して、同じ病棟に入院しているという女性が「良かったら読んでください」と1冊の本を貸してくれた。
それが『塩狩峠』との出会いだった。私は登山が好きで、高校時代から、「山」に関係ある文字が題名についている本ばかり読んでいた。『塩狩峠』も山岳小説のにおいがしたので、さっそく書見器に着けてもらって読み始めたが、山の本とは違うようだった。しかし、先を読みたくて、食事の時間も読むのを止められなかった。
読み終わった時の気持を、何と表現したらよいのだろう。暗闇だった私のこころに、ひと筋の光が灯り始めたのだ。続けて借りた『道ありき』で、三浦綾子さんという人を知り、その生き方に、また感動した。
その後、私は病室で洗礼を受け、退院後『塩狩峠』を貸してくれた人と同じ教会に行くようになり、今でも良く顔を合わせる。そして時々言う。
「骨を折ってくれてありがとう」

星野富弘 三浦綾子記念文学館 特別展『塩狩峠』「一粒の麦 いのちより重い愛の尊さ」 2016(平成28)年7月1日〜10月28日 パネル掲載文章

『塩狩峠』文庫本

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