『泥流地帯』『続泥流地帯』とは  難波真実

大正15(1926)年の十勝岳大爆発を題材にした長編小説

舞台は北海道上富良野町。活火山十勝岳の麓に広がる農村地帯で開拓農家の人々は懸命に鍬をふるい、冬は出稼ぎをしながら生きていた。そこに襲いかかった火山爆発という自然災害。
三浦綾子は、農に生きる人々の姿を丁寧に描き、十勝岳連峰・大雪山系の雄大な自然風景と、牙をむいた自然の猛威に翻弄される人々の、切なくも力強い歩みを映し出した。

テーマは“なぜ人は苦難に遭うのか”

まじめに一所懸命に生きているのに、なぜこんなひどい目に遭うのか。答えの出ないこの大きな問いに、三浦綾子は真正面から取り組んだ。十勝岳爆発により、死者・行方不明者は144名にのぼり、村は壊滅状態となった。田畑は硫黄にまみれだれもが復興をあきらめかけた。先が見えない困難に、人は抗うすべを失い、立ち尽くす。
それでも流木や石を拾って新しい土を入れ、田畑を蘇らせようとする拓一の姿があった。だれもが無駄だと言う中で、土を信じ、村を守ろうとする拓一に、希望の光が差し込む。
苦難の答えは、あれから90年を経た上富良野町に受け継がれ、人々の中に息づいている。

きめ細かい取材による精緻な描写

この作品は三浦綾子の作家活動全盛期ともいえる第Ⅱ期に生まれた。多くの文献にあたっただけではなく、現地を歩き回り、当時を知る人々から聞き取りをおこなった。涙を流しながらの取材であった。爆発のときの泥流の描写は防災の教材になるほどに正確であり、季節と自然の情景は、北海道で生まれ育った三浦綾子ならではの表現で彩られ、深く澄んでいる。

最上級のエンターテインメント性

稀代のストーリーテラーと呼ばれた三浦綾子が過剰な演出を抑え、骨太にシンプルな構成で組み立てたこの物語は、純粋に人々の感動を呼び起こす。拓一・耕作兄弟の男ぶりは、物語が進むにつれて輝きが増し、祖父や母の言葉は深みをもたらし、テーマを浮き彫りにする。福子と節子は社会の不条理を映し出しながらも、拓一と耕作の生きる力となって物語を推し進める。
史実を題材にしながらも、登場人物たちが生き生きと描かれお互いに関わり合いながら事件や困難を乗り越えていく姿が共感を誘い、物語としての面白さに引き込まれる。重厚な内容を扱いながら、読み終わった後に爽やかささえ感じてしまうのもこの作品の大きな特徴だろう。

難波真実 三浦綾子記念文学館 講演配布用資料 2017(平成29)年10月

『泥流地帯』『続泥流地帯』文庫本セット

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