そこに、妻の扶代と章子がテラスから出てきた。章子は、後妻の扶代のつれ子で香也子より二つ年上の二十二だ。
扶代は目鼻だちのパラッとした、おっとりとした女だ。それに反して章子は、伏し目勝ちな、ひっそりとした性格である。顔だちもどことなく淋しく、その唇が描いたように形がよくぬれていなければ、若い女の子らしさがないほど地味で目だたない。それがふしぎなことに、香也子のように表情の豊かな、いきいきとした女性のそばにくると、章子の輪郭がはっきりしてくる。章子の個性が生きてくるのだ。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集