「何を考えていたんだ」

「何を考えていたんだ」
ほっとして容一は、タバコに火をつける。
「なんでもないわ。でも、とてもすてきなことよ」
「すてきなこと? 香也子がすてきなことを考えるときに、ふくれっ面になるとは、知らなかったな」
冗談めかして容一は笑う。びんのあたりに白髪の目だってきた容一は、笑うとまなじりに、二、三本のしわがより、それがひどく容一を柔和に見せた。道北に手広く取引先を持つ、大きな建材会社の社長とは見えない。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「これから一服を差しあげとう存じます」

  2. 香也子は、さっきからだらだらとつづいている生さぬ仲のドラマを切った。

  3. 容一が保子の潔癖性に手を焼いたのは事実だった。

  4. あのポプラの右手に

  5. 「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」 「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」 「でも、おばあちゃんに知られたら……」

  6. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。