「何を考えていたんだ」

「何を考えていたんだ」
ほっとして容一は、タバコに火をつける。
「なんでもないわ。でも、とてもすてきなことよ」
「すてきなこと? 香也子がすてきなことを考えるときに、ふくれっ面になるとは、知らなかったな」
冗談めかして容一は笑う。びんのあたりに白髪の目だってきた容一は、笑うとまなじりに、二、三本のしわがより、それがひどく容一を柔和に見せた。道北に手広く取引先を持つ、大きな建材会社の社長とは見えない。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 二」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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