母の保子は、朝起きるとすぐに掃除をはじめた。そのときに着た着物を、そっくり着替えなければ食事の用意をしない。台所はいつも、モデルルームのキッチンのように、ぴかぴかに磨き立てられていた。口の悪い従兄の小山田整がいったことがある。
「ぼくはね、この家の台所で、朝晩食事の用意がされているということを、絶対信じないね。この台所はね、恵理ちゃん、まだ一度も使われたことがない台所だよ」
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集
母の保子は、朝起きるとすぐに掃除をはじめた。そのときに着た着物を、そっくり着替えなければ食事の用意をしない。台所はいつも、モデルルームのキッチンのように、ぴかぴかに磨き立てられていた。口の悪い従兄の小山田整がいったことがある。
「ぼくはね、この家の台所で、朝晩食事の用意がされているということを、絶対信じないね。この台所はね、恵理ちゃん、まだ一度も使われたことがない台所だよ」
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集