「帰ってきて、うがいをしたの? 手は?」
「まだよ」
「汚いわねえ」
恵理子は首をすくめながら、洗面所に行った。何をいわれても、今日の恵理子にはあまり気にならない。いましがた自分を見つめていた青年の顔が、恵理子の胸を明るくしているのだ。蛇口をひねって、ていねいに手を洗い、口をすすぎながら、恵理子はまた父のことを思った。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集
「帰ってきて、うがいをしたの? 手は?」
「まだよ」
「汚いわねえ」
恵理子は首をすくめながら、洗面所に行った。何をいわれても、今日の恵理子にはあまり気にならない。いましがた自分を見つめていた青年の顔が、恵理子の胸を明るくしているのだ。蛇口をひねって、ていねいに手を洗い、口をすすぎながら、恵理子はまた父のことを思った。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集