「お母さん、ただいま」 「あら、帰ってきたの」

「お母さん、ただいま」
「あら、帰ってきたの」
保子はすっと手を伸ばして、テレビのスイッチを切った。時々保子はこんなことをする。
「なんにもおもしろいものがないわね、日曜は」
たったいま、自分では熱心に見ていながら、保子はいう。その母の気持ちも、恵理子にはわかるような気がするのだ。たぶんこのドラマの中には、娘には知られたくない何かが隠されていたのだろうと、恵理子は察した。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. その時、階段に静かに足音がして恵理子が茶の間にはいってきた。 「あら、もう三時? おばあちゃんお帰りなさい」

  2. 章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

  3. 香也子が先に立ち、橋宮容一と妻の扶代、そしてその娘の章子があとにつづく。

  4. 「ねえ、お姉さん」 残ったコップの水を一息に飲んで、香也子はテーブルに片ひじをおき、身を乗り出すようにしていった。

  5. 「ここにいることが、よくわかったねえ」 香也子は容一の顔も見ずに、天井から吊りさげられたランタンに目をやって、

  6. 整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。