「お母さん、ただいま」
「あら、帰ってきたの」
保子はすっと手を伸ばして、テレビのスイッチを切った。時々保子はこんなことをする。
「なんにもおもしろいものがないわね、日曜は」
たったいま、自分では熱心に見ていながら、保子はいう。その母の気持ちも、恵理子にはわかるような気がするのだ。たぶんこのドラマの中には、娘には知られたくない何かが隠されていたのだろうと、恵理子は察した。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集
「お母さん、ただいま」
「あら、帰ってきたの」
保子はすっと手を伸ばして、テレビのスイッチを切った。時々保子はこんなことをする。
「なんにもおもしろいものがないわね、日曜は」
たったいま、自分では熱心に見ていながら、保子はいう。その母の気持ちも、恵理子にはわかるような気がするのだ。たぶんこのドラマの中には、娘には知られたくない何かが隠されていたのだろうと、恵理子は察した。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集