十二畳の居間に、母の保子はテレビを見ていた。

十二畳の居間に、母の保子はテレビを見ていた。
「ただいま」
声が聞こえたのか、聞こえないのか、保子はふり返りもしない。淡いみどりの博多帯を、粋に結んだ保子は、横ずわりになっていた。そのふっくらとした腰の肉づきが、四十八の年齢より、四つ五つ若く見せている。保子は軽く口をあけ、まばたきもせずにテレビを見ている。あまり高くも低くもない鼻にも、片手をついたその指のひらき具合にも、女らしさが漂っている。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 八歳のころから、母が家を出て行くまでの二年ほど、香也子は祖母のツネに茶を習ったことがある。

  2. 「香也子よ!」 保子は母のツネにささやいた。

  3. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  4. 正客への茶を点て終って、恵理子はいま、次の客への茶を点て終っていた。

  5. 二人はいつしか頂上に出た。頂上にはテレビ塔があった。

  6. 香也子が、本当に生みの母を慕っているかどうか、容一には疑問である。