静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。
靴は一ミリの隙もないように、きちっと揃えてあがる。いつものことながら、恵理子は、母と別れた父の橋宮容一の心情がわかるような気がするのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 香也子が先に立ち、橋宮容一と妻の扶代、そしてその娘の章子があとにつづく。

  2. 香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。

  3. 正門は重々しい鉄柵の門扉に閉ざされ、

  4. 「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」 「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」 「でも、おばあちゃんに知られたら……」

  5. ツネの眉が、けわしく上がっている。恵理子はふっと、わが祖母ながら、芝居に出てくる小意地の悪い奥女中を見る感じがして、ツネから目をそらせた。

  6. むろん、いまの妻扶代の、善意でのびやかな性格もいい。