静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。
靴は一ミリの隙もないように、きちっと揃えてあがる。いつものことながら、恵理子は、母と別れた父の橋宮容一の心情がわかるような気がするのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 神社のほうに、何かを囲んで人々が群れていた。その群れの中に和服姿の若い娘たちが二十人ほどいる。

  2. 「もうぼくに用事がなければ失礼します」西島はきっぱりといった。

  3. 「西島さん、やっぱり姉のこと、好きみたいね。姉も不幸せなのよ。あなたが幸せにしてくださったら、うれしいわ」

  4. 「おとなしいところがいいんだろう。ところで、お前もお茶でも習ったらどうだ」 容一はようやく、いいたかったことをきりだした。

  5. ふっと恵理子は時計を見た。もう十二時半だ。川向こうを見る。やはり青年はきていない。と、その時、「恵理子、お電話よ」 と呼ぶ、母の保子の声がした。

  6. 神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。