玄関までの、五メートルほどの道の両側に、ピンクの芝桜が咲き、

玄関までの、五メートルほどの道の両側に、ピンクの芝桜が咲き、庭のつつじもいまが盛りだ。草一本生えていないのは、母の保子の手入れだ。
玄関の格子戸をあける前に、恵理子はいつものように、服のちりを手で払い落とす。今朝着替えたばかりの、薄いグリーンのスーツが、恵理子によく似合う。バッグから紙を出し、恵理子は靴を拭く。そして、敷かれてある靴拭いで、靴の底を十分に拭う。万一これを忘れると、たちまち母に、
「汚いわねえ」
と、言いようもない嫌悪をこめた声音で叱られるのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  2. クレンジングクリームをガーゼでぬぐい、化粧水をふくませた脱脂綿でごしごし拭いている時、ドアをノックする音が聞こえた。

  3. 思わず立ちあがった橋宮容一は、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる香也子に、一瞬弱々しい微笑を向けた。が、香也子は、唇をキュッと閉じ、容一と恵理子を無視して、テーブルに近づいてきた。

  4. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  5. 車は火山灰地の白い丘の上を走って行く。 「ねえ、金井さん。いや、今日からお兄さんと呼ぼうかしら。いい? お兄さんと呼んでも」

  6. 恵理子の立つ、川一つ隔てたこの道には、