恵理子は誰かの視線を感じた。

と、そのとき、恵理子は誰かの視線を感じた。ポプラから離れて、ふと対岸を見ると、タンポポの群れ咲く岸に腰をおろしてじっとこちらを見ている青年があった。十メートル離れたこちらからも、その眉は秀でて見えた。白いワイシャツの姿が清潔な印象を与えた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「ああ、お父さんだ」 のんびりとした容一の声がした。

  2. 「ああ、ああ、いつきてもいい丘だなあ、ここは。こぶしほころび、桜咲きか……」

  3. ふっと恵理子は時計を見た。もう十二時半だ。川向こうを見る。やはり青年はきていない。と、その時、「恵理子、お電話よ」 と呼ぶ、母の保子の声がした。

  4. 「あの、あと二十分ぐらいしたら、おみえになる筈ですけれど」

  5. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  6. 「まあ、すてき!」 崖ぶちのあずまやにはいった香也子が叫んだ。