あのポプラの右手に

あのポプラの右手に、恵理子の家があるのだ。
恵理子は土手の端の柔らかいよもぎをちぎって、形のいい鼻に近づける。よもぎの新鮮な、鋭い香りが恵理子は好きだ。恵理子はよもぎを手に持ったまま、ゆっくりと歩いて行く。買物袋の中には、頼まれもののスーツの生地がはいっている。恵理子は洋裁で家計を助けているのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「あの……」追いついて口ごもった香也子に、青年はふり返った。

  2. 香也子が先に立ち、橋宮容一と妻の扶代、そしてその娘の章子があとにつづく。

  3. 二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。

  4. 香也子は椅子ごと、ぐいと扶代と章子のほうを向いた。

  5. 恵理子は器用に、スーツの裾をまつっていく。驚くほどの早さであり、驚くほどのうまさである。グリーンのこのスーツの主は、高校時代の友人だ。

  6. 「わたし、香也子です。よろしく」