あのポプラの右手に

あのポプラの右手に、恵理子の家があるのだ。
恵理子は土手の端の柔らかいよもぎをちぎって、形のいい鼻に近づける。よもぎの新鮮な、鋭い香りが恵理子は好きだ。恵理子はよもぎを手に持ったまま、ゆっくりと歩いて行く。買物袋の中には、頼まれもののスーツの生地がはいっている。恵理子は洋裁で家計を助けているのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 炎を見つめながら、恵理子はそのとき、そんなことを思っていた。

  2. 香也子が先に立ち、橋宮容一と妻の扶代、そしてその娘の章子があとにつづく。

  3. 「見事だねえ。恵理子」

  4. その時、階段に静かに足音がして恵理子が茶の間にはいってきた。 「あら、もう三時? おばあちゃんお帰りなさい」

  5. 「お父さん、あのお点前をしている人……」

  6. 「そうね、わたしも料理学校に行こうかな。ね、お父さん、わたし、章子さんより先にお嫁に行きたいわ」