あのポプラの右手に

あのポプラの右手に、恵理子の家があるのだ。
恵理子は土手の端の柔らかいよもぎをちぎって、形のいい鼻に近づける。よもぎの新鮮な、鋭い香りが恵理子は好きだ。恵理子はよもぎを手に持ったまま、ゆっくりと歩いて行く。買物袋の中には、頼まれもののスーツの生地がはいっている。恵理子は洋裁で家計を助けているのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 一」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. それは、数日前、従兄の小山田整から、恵理子のうわさを聞いていたからだ。

  2. 「あの、あと二十分ぐらいしたら、おみえになる筈ですけれど」

  3. むろん、いまの妻扶代の、善意でのびやかな性格もいい。

  4. 「ああ、ああ、いつきてもいい丘だなあ、ここは。こぶしほころび、桜咲きか……」

  5. 義父の容一にニヤリと笑われて、章子は耳まで真っ赤にした。

  6. そのときも、恵理子は焼却炉にゴミを捨て、いつものようにマッチで火をつけた。