可能性を拡げる読書体験  田中綾

2019年は三浦綾子の没後20年、綾子と三浦光世の結婚式から60年という年にあたります。お支えくださる皆さまとともに、当文学館も21年目を一歩一歩歩んでおります。
昨年は、開館20周年のさまざまな事業を無事に進めることができましたが、国内では、風水害や地震など、人智の及ばない自然災害の報道がいくつもありました。
「人智の及ばない」という言葉をかみしめていたころ、第20回三浦綾子作文賞受賞作の文面に、はっと目を奪われました。「読書感想文部門」の最優秀賞作・川口琴理さん(高校2年生)が、『泥流地帯』に寄せた「それでも生きる勇気」の後半部分です。
「人は決して強い生き物ではないのだ。大自然を目の前にしてひとたまりもない。儚い、小さい生き物だ。それでも人には他の生き物にはない心がある。他の人に意思を伝えることのできる口がある。喜びも悲しみも共有することができる。人が秘めている可能性は偉大だ。生きている。それだけで奇跡なのだ」
『泥流地帯』のテーマと普遍性を過不足なく伝え、それを読み継ぐ意義、また、「生」そのものへの畏敬の念も伝わる文面でした。あらためて、作文賞の存在意義に感じ入った次第です。読書体験は、可能性を拡げますね。
今年度の作文賞は、選考委員も増え、女優・深川麻衣さんが特別にゲストコメンテーターをつとめてくださいます。どうぞ今号の最終ページをご参照ください。

田中綾 三浦綾子記念文学館 館報「みほんりん」第42号 2019(令和元)年3月12日

館長ブログ「綾歌」三浦綾子記念文学館

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