香也子は、さっきからだらだらとつづいている生さぬ仲のドラマを切った。

香也子は、さっきからだらだらとつづいている生さぬ仲のドラマを切った。この生さぬ仲のドラマは、継母もやさしければ、継子もやさしい。それが香也子には気にいらないのだ。人間が自分以外の他の者を、どうして愛せるだろうと、香也子は思っている。
容一が香也子をかわいいといっても、その愛さえも、香也子は信じていない。本当にかわいいのなら、どうして父と母は別れたのかと思う。父と母が別れたのは、つまりは子供より自分がかわいかったからではないかと、香也子は嘲笑したくなるのだ。男と女の愛も信じられない。この世に、いやというほど離婚があり、失恋があるというのに、どうして人々は、愛だの、恋だのと騒ぐのだろうと、香也子は思うのだ。いまは子殺しの時代だという。自分自身の身勝手な都合で、子供さえ殺す。そんな人間に、何が愛だ、何が恋だと、香也子は怒りさえ感ずるのだ。香也子には誰も信じられない。それなのに、いま見たテレビドラマは、継子継母が、お互いに思いやるドラマだ。馬鹿馬鹿しくてテレビを切った香也子に、章子は、
「あら、ごらんになっててもいいのよ」
と、おずおずという。
紅茶と、パウンドケーキをサイドテーブルにおいて、
「うまく焼けたかどうか、わからないけど」
と、章子は香也子の顔色をうかがう。
「章子さんのつくったものは、おいしいに決まっているわよ」
「あら、うれしいわ」
「だってもう五十本も焼いたじゃない? 五十本も焼けば、馬鹿だっておいしくできるわよ」
気にさわるドラマを見ていた腹だたしさで、香也子は機嫌がわるい。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 九」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「おいしいわ。とってもおいしいわ」 香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。

  2. 「これから一服を差しあげとう存じます」

  3. 「見事だねえ。恵理子」

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