「ここにいることが、よくわかったねえ」 香也子は容一の顔も見ずに、天井から吊りさげられたランタンに目をやって、

「ここにいることが、よくわかったねえ」
香也子は容一の顔も見ずに、天井から吊りさげられたランタンに目をやって、
「いまわたし、お父さんの会社に寄ったのよ。そしたら、秘書の笹さんが、お父さんはもうホテルに出かけましたよっていうじゃない? ホテルに何しにって聞いたら、お嬢さまと中華料理をおあがりになるって。あらそんな約束だったかしらと、きてみたのよ。お嬢さまちがいとは知らなかったわ。馬鹿にしてる」
「そうか、そりゃあちょうどよかった。何を食べる? 香也子」
「何がちょうどよかったのよ。ごまかさないでよ、お父さん」
ウエートレスの持ってきたコップの水を香也子はひとくち飲んで、はじめてきっと容一を見た。その香也子を見つめながら、幼い時と少しも変わらないと、恵理子は思わず微笑を浮かべた。香也子はいいたいことは必ずいい、したいことは必ずする性格だった。自分の制服のスカートをずたずたに切りさかれたことさえ、いまの恵理子には懐かしい。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 八」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 車はいつのまにか、高砂台から観音台につづく、馬の背に似た丘の尾根を走っていた。

  2. 容一に手首をぐいぐい引っぱられて、何十メートルか、斜面を降りた扶代と章子は、あっけにとられていた。

  3. 「おばあちゃんは、お茶の先生でしょ」

  4. 金井はいま、思いきって橋宮容一に、章子との交際を求めたばかりなのだ。

  5. 近づいてきた金井は、小さくクラクションを鳴らした。驚いたように香也子は目を見張り、車から顔を出した金井政夫をみつめた。

  6. 「混むかねえ、この天気だと」