「ここの中華料理はうまいね。実はこの前の日曜日、うちに客があってね。中華料理の手づくりをご馳走したんだ。それが意外とうまくてね。お前たちに食べさせてやりたいと思ったもんだから……」 「どなたがおつくりになったの」

「ここの中華料理はうまいね。実はこの前の日曜日、うちに客があってね。中華料理の手づくりをご馳走したんだ。それが意外とうまくてね。お前たちに食べさせてやりたいと思ったもんだから……」
「どなたがおつくりになったの」
保子の語調が、ややねっとりとなる。容一はす早くそれに気づいて、
「お手伝いの絹子だ。あれは料理の上手な娘でね」
絹子が料理上手なのは事実だ。が、あの日は扶代の娘、章子が料理学校で習った腕前を披露したのだ。しかし容一は、そうはいわない。
「香也ちゃんは、お料理上手ですか」
恵理子が目をあげて容一を見た。
「いやあ、あいつは食べる一方でね」
「それは結構ですわ。あの年ごろで食欲がなけりゃあ、大変ですわ。ね、恵理子」
「それは、ま、そうだが……恵理子は何が得意かね」
少しでも恵理子にものをいわせようとする容一の気持ちが、恵理子にもあたたかく伝わる。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 七」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「どうした。コーヒーを飲まないのかい」

  2. そうかしら。女はただの顔見知りの人に、あんなに顔を赤くはしないわ。

  3. 香也子が、本当に生みの母を慕っているかどうか、容一には疑問である。

  4. 「ねえ、お姉さん」 残ったコップの水を一息に飲んで、香也子はテーブルに片ひじをおき、身を乗り出すようにしていった。

  5. 「おいしいわ。とってもおいしいわ」 香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。

  6. 恵理子の立つ、川一つ隔てたこの道には、