「ここの中華料理はうまいね。実はこの前の日曜日、うちに客があってね。中華料理の手づくりをご馳走したんだ。それが意外とうまくてね。お前たちに食べさせてやりたいと思ったもんだから……」 「どなたがおつくりになったの」

「ここの中華料理はうまいね。実はこの前の日曜日、うちに客があってね。中華料理の手づくりをご馳走したんだ。それが意外とうまくてね。お前たちに食べさせてやりたいと思ったもんだから……」
「どなたがおつくりになったの」
保子の語調が、ややねっとりとなる。容一はす早くそれに気づいて、
「お手伝いの絹子だ。あれは料理の上手な娘でね」
絹子が料理上手なのは事実だ。が、あの日は扶代の娘、章子が料理学校で習った腕前を披露したのだ。しかし容一は、そうはいわない。
「香也ちゃんは、お料理上手ですか」
恵理子が目をあげて容一を見た。
「いやあ、あいつは食べる一方でね」
「それは結構ですわ。あの年ごろで食欲がなけりゃあ、大変ですわ。ね、恵理子」
「それは、ま、そうだが……恵理子は何が得意かね」
少しでも恵理子にものをいわせようとする容一の気持ちが、恵理子にもあたたかく伝わる。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 七」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 五月も十日に近い日曜の午後。

  2. 香也子は二人を見ると、ついと顔をそむけた。

  3. 章子は再び帯のあたりに手をやった。

  4. 「そうか、ぼくは、あの人は何不自由なく育った幸せな人かと思った。そうか、お父さんがおられなかったのか」

  5. 「ね、お父さん。で、もう決まってしまったの」

  6. 「ねえ、お父さん。わたしも勤めたいわ」 「勤める?」 容一の眉間にたてじわが寄る。