店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。 「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」

店内はひっそりとして客が二組ほどしかなかった。ま昼のせいだろう。容一、保子、恵理子の三人が、いちばん隅の席に向かい合っていた。
「いい娘になったねえ。まったくいい娘になった」
容一はさきほどから、同じことを目を細めて、幾度もいっている。
「そうですよ。恵理子は、ほんとうにいい娘ですよ」
牛肉とピーマンのいため煮を小皿にとりながら保子がいう。そのきものから出た肉づきのいい腕が、ふっくらとなまめかしい。恵理子は、母の保子の表情が、いつになく若々しいのに、何か痛ましさを感じた。別れた夫に会う女は、はたしてみんなこのような表情になるだろうか。そんな思いが、ふっと心をよぎった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 七」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 章子は再び帯のあたりに手をやった。

  2. 神社のほうに、何かを囲んで人々が群れていた。その群れの中に和服姿の若い娘たちが二十人ほどいる。

  3. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  4. と、ビールを飲みながら、ふっと笑って、 「いやですねえ。昔の話をむし返して。

  5. 「ねえ、わたしたち三人は、水入らずよね。血が通っているんですもの。章子さんや小母さんとは、ちがうわよねえ」

  6. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。