「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」 「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」 「でも、おばあちゃんに知られたら……」

「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」
「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」
「でも、おばあちゃんに知られたら……」
ツネがいっていたことを忘れてはいない。ツネは母の保子に、
「香也子のことなんか、いまさらいいださないでおくれよ、わたしにかくれて、香也子に会ったりしちゃ、承知しないよ。そんなことすると、あの橋宮とも会うようになるんだから」
といい、恵理子にも、
「橋宮の家になんか、電話をかけたりしないようにね」
と、はっきり釘を打ったのだ。
保子は恵理子に、
「大丈夫よ、おばあちゃんに内緒で会えばいいんじゃない。子供じゃあるまいし、いちいちいわれることはないわ」
と、じれったそうにいう。恵理子は受話器を持ちなおし、
「お待たせしてごめんなさい。じゃ、これから、母と一緒に参ります」
「おお、そうかそうか。じゃ、ニュー北海ホテルの二階の中華料理の店で待ってるよ。すぐにくるんだよ」
容一がうきうきといった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 六」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 三百坪ほどの広い庭は、なだらかに傾斜しつつ、沢の端に至っている。

  2. 整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。

  3. 「ねえ、わたしたち三人は、水入らずよね。血が通っているんですもの。章子さんや小母さんとは、ちがうわよねえ」

  4. あの時よりいちだんと娘らしくなった恵理子が、顔をうつむけて茶を点てている。

  5. 「わたし、香也子です。よろしく」

  6. 玄関までの、五メートルほどの道の両側に、ピンクの芝桜が咲き、