「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」
「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」
「でも、おばあちゃんに知られたら……」
ツネがいっていたことを忘れてはいない。ツネは母の保子に、
「香也子のことなんか、いまさらいいださないでおくれよ、わたしにかくれて、香也子に会ったりしちゃ、承知しないよ。そんなことすると、あの橋宮とも会うようになるんだから」
といい、恵理子にも、
「橋宮の家になんか、電話をかけたりしないようにね」
と、はっきり釘を打ったのだ。
保子は恵理子に、
「大丈夫よ、おばあちゃんに内緒で会えばいいんじゃない。子供じゃあるまいし、いちいちいわれることはないわ」
と、じれったそうにいう。恵理子は受話器を持ちなおし、
「お待たせしてごめんなさい。じゃ、これから、母と一緒に参ります」
「おお、そうかそうか。じゃ、ニュー北海ホテルの二階の中華料理の店で待ってるよ。すぐにくるんだよ」
容一がうきうきといった。
三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 六」