「いつかねえ、旭山で恵理子のきもの姿を見たよ。いい娘になったね」
「…………」
「どうだね、一度お父さんと食事でもしないかね」
「……ハイ……でも」
「そこにおばあちゃんがいるのかい。おばあちゃんは、木曜日は留守の筈だが」
いつのまにそんなことを父は知ったのだろう。いま、母がそう告げたのだろうか。とまどいを感じながら、
「いま、母だけですけれど……」
「じゃ、どうだね。お母さんと街まで出てこないかね、十五分もあったら出てこれるだろう」
「ハイ、あの、香也ちゃんも一緒ですか」
「いや、香也子は、今日は一緒じゃないが」
「香也ちゃんも呼んでください。そしたら……参ります」
「いや、香也子にも会わせたいんだがね、あの子のことでも話があるんだ。今日はお父さんとお母さんの三人でもいいだろう」
「ちょっとお待ちください」
恵理子は、うしろにいる保子をふり返った。
三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 六」