若葉となったポプラの木立越しに向こう岸を見た恵理子は、淡い失望を感じて再びミシンの前にすわった。

若葉となったポプラの木立越しに向こう岸を見た恵理子は、淡い失望を感じて再びミシンの前にすわった。スーツの裾をまつりながら、恵理子は、野点の日以来、向こう岸に姿を見せなくなった青年のことを思う。もうあれから、ひと月以上は過ぎた。窓から眺めるたびに、恵理子は向こう岸に青年の姿を期待した。が、なぜか、あのギターを持った姿は現れなかった。思いがけなく茶会で会った時、恵理子は自分でも驚くほど胸がときめいた。わざわざ野点の席につらなってくれた青年を思って、その夜、恵理子は眠ることができなかった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 六」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 車はいつのまにか、高砂台から観音台につづく、馬の背に似た丘の尾根を走っていた。

  2. 「もしもし、お兄さん? わたしよ。香也子よ」 甘い声を香也子は出す。 「ああ、香也子さんですか。いけませんよ、章子さんのそばで電話をしたりしちゃ」

  3. と、その時電話のベルが鳴った。ハッとしたように章子が受話器を取った。 「もしもし、橋宮でございます。あら、政夫さん?」

  4. ほうっと、また溜息をついた時、先程の騎馬であろうか。再び地ひびきを立てて塀の外を駈け過ぎて行った。

  5. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  6. 章子のボーイフレンドの金井政夫を、今日ははじめてわが家に呼んだのだ。