「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。

「ハ、ぼくは章子さんのいいように」
と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。
「ね、香也ちゃん、一寸八分って書く姓があるの、知ってる?」
「一寸八分? 何て読むのよ」
「知らないだろう。カマツカ、カマツカだよ。五六と書いて何と読む?」
「知らないわ」
「フジノボリっていうんだよ」
「まあ! ほんと?」
「な、香也ちゃん。この世には苗字ひとつだっていろいろあるよな。色に摩擦の摩って書いて何と読む?」
「しきま?」
いってから、香也子は小山田をにらんだ。
「いや、シカマさ。だけどシキマって呼ばれて改姓したそうだけどね、名前は改めても、色魔ってのは、そう簡単になおらんからな」
香也子と金井にだけわかる言葉だった。が、容一はその三人の顔を順々に見つめた。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 五」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  4. 香也子が、本当に生みの母を慕っているかどうか、容一には疑問である。

  5. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  6. 金井はいま、思いきって橋宮容一に、章子との交際を求めたばかりなのだ。