整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。

整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。香也子の性格をのみこんでいる小山田整には、ぴんとくるものがあった。遠くから後を尾けて行ってみると、案の定、途中で香也子が金井の肩に頭をよせるのが見えた。車は観音台の霊園のほうにむかって行く。そこが人けのない淋しい道であることを、小山田整も知っていた。金井の車が道の途中にとまった。整の車が近づくのも知らずに、ふたりが顔を近づけていた。クラクションを鳴らすと、あわててふたりは離れた。車を降りた整は、
「やあ、ご両人、といいたいところだが、相手がちがうじゃないか、相手がよ。香也ちゃん、こっちの車に移んな」
そういって整は、香也子をつれて戻ってきたのだ。
「まあ、悪いようにはしないからさ。ぼくだって、そう不粋じゃないからね」
金井にもそういって、ひとまずみんなで夕餐に顔を出したのだった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 五」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 子供のように勢いよく走って行く香也子のうしろ姿を、西島広之は微笑して見送った。

  2. それにしても、女の命は見目形であろうか

  3. 二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。

  4. お手伝いの絹子が、コーヒーを持ってテラスから芝生に降りてきた。

  5. 「香也子、お前、お姉さんに久しぶりで会ったんだろう。まず挨拶をしたらどうだ。怒るのはそのあとでもいい。なあ、恵理子」 「香也ちゃん、しばらくね」

  6. 恵理子は器用に、スーツの裾をまつっていく。驚くほどの早さであり、驚くほどのうまさである。グリーンのこのスーツの主は、高校時代の友人だ。