整は今日、章子からの電話を受けて、金井の相伴にやってきたのだった。整の車がバス通りを下って行った時、香也子が金井の車に乗るのを見かけた。香也子の性格をのみこんでいる小山田整には、ぴんとくるものがあった。遠くから後を尾けて行ってみると、案の定、途中で香也子が金井の肩に頭をよせるのが見えた。車は観音台の霊園のほうにむかって行く。そこが人けのない淋しい道であることを、小山田整も知っていた。金井の車が道の途中にとまった。整の車が近づくのも知らずに、ふたりが顔を近づけていた。クラクションを鳴らすと、あわててふたりは離れた。車を降りた整は、
「やあ、ご両人、といいたいところだが、相手がちがうじゃないか、相手がよ。香也ちゃん、こっちの車に移んな」
そういって整は、香也子をつれて戻ってきたのだ。
「まあ、悪いようにはしないからさ。ぼくだって、そう不粋じゃないからね」
金井にもそういって、ひとまずみんなで夕餐に顔を出したのだった。
三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 五」