「おいしいわ。とってもおいしいわ」 香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。

「おいしいわ。とってもおいしいわ」
香也子がいった。テーブルの上には、牛肉とピーマンと地物の筍のいため煮、毛蟹を使ったフーヨーハイ、それに容一の好きな八宝菜、酢ブタなどがいっぱいに並べられている。
「あら、うれしいわ。香也子さんにほめられるなんて」
上気した頬を、章子はおさえた。小山田整は、
「ああ、おいしいだろうよ。香也ちゃんとしてはな」
と、意味ありげに笑った。
「あら、どういうこと? 整さん」
香也子は軽くにらんだ。金井はその香也子をちらりと見、目を伏せて黙々と食べている。
「だってそうだろう。香也ちゃんは何ひとつ手伝わないで、ただ食べているわけだろう。料理ってものは、作った人はおいしくないものさ。なあ、章子ちゃん」

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 五」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「これから一服を差しあげとう存じます」

  2. ツネの眉が、けわしく上がっている。恵理子はふっと、わが祖母ながら、芝居に出てくる小意地の悪い奥女中を見る感じがして、ツネから目をそらせた。

  3. お手伝いの絹子が、コーヒーを持ってテラスから芝生に降りてきた。

  4. 二人は顔を見合わせて、椅子に腰をおろした。 「これで第一関門はパスしたようだね」

  5. 「お母さん、お父さんが一緒に食事をしようって。行ってもいいのかしら」 「いいわよ、お母さんも一緒に行くから」 「でも、おばあちゃんに知られたら……」

  6. 十二畳の居間に、母の保子はテレビを見ていた。