金井が、香也子の両頬を手で挟んだ。そしてそっと唇を近づけようとした時だった。うしろで、けたたましくクラクションが鳴った。

金井が、香也子の両頬を手で挟んだ。そしてそっと唇を近づけようとした時だった。うしろで、けたたましくクラクションが鳴った。はっと金井はハンドルをとった。車がようやくすれちがうことのできる狭い道なのだ。あわてて金井は車を左に寄せたが、うしろから再びクラクションが鳴った。
「これだけ寄せれば通れるのになあ……」
ふり返ると、思いがけなく香也子の従兄の小山田整が、車から降りてきたところだった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 四」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「お父さん、あのお点前をしている人……」

  2. 「そんなこといったって……」 「ね、お兄さん。わたし、結婚してもらわなくてもいいの。ただ一度だけ、キスをしてほしいの。ただ、それだけなの」

  3. 容一は立ちあがり、 「ま、この後は君たち二人で……な、扶代」

  4. 静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

  5. いつも家の中で洋裁をするか、祖母のお茶の稽古の手伝いをするだけの恵理子の生活は、ほとんど異性に接する機会のない生活だった。

  6. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。