と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。いままで無邪気だった香也子の顔に、皮肉な微笑が浮かんだ。香也子は、金井を迎えに出てきたのだ。
金井は、あれ以来日曜日毎に、香也子の家に現れる。今日も金井を迎えるために、章子は台所で、お手伝いの絹子とともに、大童だった。その間に、香也子は誰にもいわず、そっと金井を迎えに出てきたのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 三」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 義父の容一にニヤリと笑われて、章子は耳まで真っ赤にした。

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  3. 「おばあちゃん。わたし、お母さんのいうことわかるわ。わたしだって香也ちゃんやお父さんが懐かしいわ」 恵理子が助け舟を出す。

  4. と、ビールを飲みながら、ふっと笑って、 「いやですねえ。昔の話をむし返して。

  5. それにしても、女の命は見目形であろうか

  6. 香也子は、ひとくち汁をすすって、 「あ、そうそう。ね、お父さん。わたしね、あの時ボーイフレンドができたのよ。お茶席で、わたしの隣に正客になった人」