菊天で容一に会った時、容一は保子の指に指輪のないのを見ていった。 「買ってやろうか」

菊天で容一に会った時、容一は保子の指に指輪のないのを見ていった。
「買ってやろうか」
「いいのよ、お茶をしてると、指輪は邪魔なの。茶器に傷をつけるから」
と保子はいったが、その手は、容一にそっと握られていた。その時の感触が、まだ保子の体に残っている。それは抱かれた感触のように強烈だった。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 二」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  3. 人々の視線は、再び茶席に戻っている。

  4. 「混むかねえ、この天気だと」

  5. 若葉となったポプラの木立越しに向こう岸を見た恵理子は、淡い失望を感じて再びミシンの前にすわった。

  6. 助手台に乗っていた祖母のツネが、うしろの保子と恵理子をふり返っていった。