その時、階段に静かに足音がして恵理子が茶の間にはいってきた。
「あら、もう三時? おばあちゃんお帰りなさい」
恵理子は畳にすわる。たたみ終わったツネのきものをタンスにいれながら保子がいう。
「ねえ、恵理子、お前香也子をどう思った?」
「どうって?」
突き刺すような激しい視線を自分に向けていた香也子を、恵理子は思い浮かべる。
「あの子はやっぱり、懐かしがってきたんだろうね」
「そりゃあそうでしょう」
懐かしがってくる以外に、どんな気持ちでくるだろう、と恵理子は思う。くるにはきたが、その自分の感情をどう表現してよいか、香也子は戸惑っていたのだと恵理子は思う。
三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 二」