「ねえ、お父さん。わたしも勤めたいわ」 「勤める?」 容一の眉間にたてじわが寄る。

「ねえ、お父さん。わたしも勤めたいわ」
「勤める?」
容一の眉間にたてじわが寄る。
「だって、ピアノ習ってるだけじゃつまらないもの」
「じゃ、料理でも習えばいい」
容一はこの、手に負えないわがままな香也子がかわいい。勤めに出す気はしないのだ。
「だって、章子さんは勤めさせたじゃない?」
今年の三月まで、章子は会計事務所に勤めていた。が、三月で辞めたのは、英語塾の金井政夫との仲が、急速に進んだためである。章子は、いま、せっせと料理学校に通っている。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 一」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. それは、数日前、従兄の小山田整から、恵理子のうわさを聞いていたからだ。

  2. 容一が保子の潔癖性に手を焼いたのは事実だった。

  3. 近づいてきた金井は、小さくクラクションを鳴らした。驚いたように香也子は目を見張り、車から顔を出した金井政夫をみつめた。

  4. 「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」  わざと香也子は無邪気にいう。

  5. そんな容一に、保子から電話がきた時、容一はわれにもなく心がゆらいだ。

  6. 「あなた、よかったわ、香也ちゃんに誘われて。旭川にこんなきれいなところがあるとは、知りませんでしたよ」