クレンジングクリームをガーゼでぬぐい、化粧水をふくませた脱脂綿でごしごし拭いている時、ドアをノックする音が聞こえた。

クレンジングクリームをガーゼでぬぐい、化粧水をふくませた脱脂綿でごしごし拭いている時、ドアをノックする音が聞こえた。たちまち香也子の眉がぴりりと上がった。
「誰?」
咎める声だ。化粧を落とした顔を扶代や章子には見せたくないのだ。香也子は、幼い時に聞いた白雪姫の話の中で、もっとも心をうたれたのは、白雪姫のまま母が、鏡に向かって、
「鏡や、鏡や、世界のうちでいちばん美しいのは誰?」
と、尋ねる言葉だった。香也子もそんな思いで、いつも自分の顔を鏡に見ているのだ。他人に素顔を見せるくらいなら死にたいほどなのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 一」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  4. 八歳のころから、母が家を出て行くまでの二年ほど、香也子は祖母のツネに茶を習ったことがある。

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