香也子は、化粧の仕上がった顔を、さっきから鏡に近づけたり離したりして、眺めている。

香也子は、化粧の仕上がった顔を、さっきから鏡に近づけたり離したりして、眺めている。が、どうも気にいらない。眉はもっと細くしたほうがいいような気もするし、口紅はオレンジ系の色にしたほうがよかったように思う。
香也子の目に、十日ほど前に見た姉の恵理子の顔が鮮やかに焼きついている。彫ったような二重瞼、しっとりとした肌、やさしくとおった鼻筋、それらがいやでも目に焼きついている。
あれ以来香也子は、鏡に向かうたびに、恵理子の顔と見くらべるような思いで化粧してきた。が、そのたびに苦い敗北感を味わうのだ。黒い目の輝きは姉には負けないと思う。やや小さめの唇も、薄いが形がよいと思う。が、どこかが姉に及ばない。それが香也子にはくやしいのだ。香也子はクレンジングクリームのふたをとると、人さし指と中指で、たっぷりとそれをすくい、額、頬、鼻、あごに、点々とつけ、思いきりよく化粧を落としはじめた。白いガーゼにべっとりとファウンデーションの色がつく。

三浦綾子『果て遠き丘』「影法師 一」

『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 西に行けば、道は下って三百メートルほどむこうの柏林に突きあたる。香也子は東にむかって歩いて行く。道端のチモシーが雨にぬれて光っているのが目をひく。角の家の藤がいま盛りで、小さな紫の滝のようだ。

  2. 章子は再び帯のあたりに手をやった。

  3. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  4. そのときも、恵理子は焼却炉にゴミを捨て、いつものようにマッチで火をつけた。

  5. 駆けこむように家にはいってから、恵理子は自分の感情の動きにふっと笑い出したくなった。

  6. 「ここにいることが、よくわかったねえ」 香也子は容一の顔も見ずに、天井から吊りさげられたランタンに目をやって、