二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。腰まで垂れた豊かな黒髪を下くくりし、元結をかけている。
「ありがとう。気分はもうずいぶんよろしいのです。でも……」
ほほえんでいた凞子の目がかげった。
「お輿入れのことがご心配なのでしょう?」
八重は大人っぽい表情になった。
「おことわり申し上げるより仕方がないでしょうけれど……」
「でも、お姉さま。光秀さまががっかりなさるだろうと、お父上さまがおっしゃっておられました」
「お父上さまが?」
父の範凞は、凞子が病んで以来、結婚のことについてはぴたりと口を閉じていた。光秀との結婚を誰よりも喜んでいた父だけに、その落胆が思いやられてならなかった。
三浦綾子『細川ガラシャ夫人』「痘痕(あばた)」