「あの……わたし、いまお茶を点てていた恵理子の妹なんです」

「あの……わたし、いまお茶を点てていた恵理子の妹なんです」
「え?」
青年は目を見張った。
「あの人が君のお姉さん?」
「そうです」
「えり子さんっていうんですか、あの人」
「あら、まだ名前もご存じないんですか」
「知りません」
「じゃあ、どうして姉はあなたを見て真っ赤になったんでしょう」
「さあ、顔見知りだからでしょう」
青年の答えはさわやかだった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 七」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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