「あの……」追いついて口ごもった香也子に、青年はふり返った。

「あの……」
追いついて口ごもった香也子に、青年はふり返った。
「ああ」
青年は香也子が、自分の隣にいた女性であることに気づいたようだった。
「何か……」
香也子はうなずいた。
「わたし……あなたに聞いていただきたいことがあるんです」
香也子は少し涙ぐんだような声でいった。
「ぼくにですか」
青年は、ちょっと困った顔をしたが、「なんです?」と、やさしく香也子を見た。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 七」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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