茶席を出た香也子は、桜の木陰にいる祖母と、母の保子を見出した。

茶席を出た香也子は、桜の木陰にいる祖母と、母の保子を見出した。保子が笑いかけ、近寄ろうとした時、香也子はついと視線をはずして、すぐにその場を離れた。ひどく冷たい表情だった。香也子はうしろもふり向かずに、いましがた隣にいた青年の姿を追った。青年はぶらぶらと、山道を登って行く。香也子は、急ぎ足で後を追った。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 七」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 西に行けば、道は下って三百メートルほどむこうの柏林に突きあたる。香也子は東にむかって歩いて行く。道端のチモシーが雨にぬれて光っているのが目をひく。角の家の藤がいま盛りで、小さな紫の滝のようだ。

  2. 香也子は、ひとくち汁をすすって、 「あ、そうそう。ね、お父さん。わたしね、あの時ボーイフレンドができたのよ。お茶席で、わたしの隣に正客になった人」

  3. 容一がそういったとき、幼い頃、散歩に手を引いてくれた父の手の感触が、ふっと思い出された。

  4. 「あの、あと二十分ぐらいしたら、おみえになる筈ですけれど」

  5. 橋宮容一は、小料理屋菊天の一室に保子を待っていた。

  6. 「おとなしいところがいいんだろう。ところで、お前もお茶でも習ったらどうだ」 容一はようやく、いいたかったことをきりだした。