恵理子が柄杓を釜にいれた時、青年がいった。

恵理子が柄杓を釜にいれた時、青年がいった。
「いいおなりのお釜ですね」
恵理子が何か答えたようだった。が、香也子には、その声は低くて聞こえなかった。
「そうですか。道理で」
青年はうなずき、
「今朝新聞で、お宅の茶会があることを知りましてね」
「よくおいでくださいました」
その会話に、香也子は、二人の関係がさほど親密ではないことを知った。もし恋人同士であれば、新聞を通して茶会を知る必要はない。が、恵理子がこの青年に心惹かれていることは、顔を赤らめたことからも知れた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 七」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 助手台に乗っていた祖母のツネが、うしろの保子と恵理子をふり返っていった。

  2. と、丘の上に車が現れた。車は真っすぐに香也子のほうに下ってくる。見覚えのある金井政夫の車だ。

  3. 恵理子は焼却炉のそばを離れたかったが、燃えつきるまでそばについているように、常々保子からいわれている。

  4. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  5. じっと恵理子を見つめている香也子の姿を、ツネと保子が息を殺して眺めている。

  6. 「お母さん、ただいま」 「あら、帰ってきたの」