「これから一服を差しあげとう存じます」

「これから一服を差しあげとう存じます」
亭主の恵理子がそういってお辞儀をし、正客の青年を見た。途端に恵理子の顔に血がのぼった。
(あら、あかくなっている!)
正客の隣の香也子は、すばやく青年を見た。青年もちょっと顔を赤らめている。
(愉快だわ……この二人はきっと恋人同士なのだわ)

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 七」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  3. そのときも、恵理子は焼却炉にゴミを捨て、いつものようにマッチで火をつけた。

  4. 「だからいったことじゃないか。第一だよ、わしに女ができたからって……そりゃ女をつくることは悪いよ。悪いがねえ、保子、俺だって男だからね。たまにはほかの女にも手を出すさ」

  5. 玄関までの、五メートルほどの道の両側に、ピンクの芝桜が咲き、

  6. この川を隔てた向こうは