香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。

香也子は父の手をふり払って、ふくさをつけている和服姿の中年の女にいった。
「あの、わたしもお席にすわらせていただいても、いいでしょうか」
「どうぞ、どうぞ。もうこの方たちがお立ちになりますから、こちらでお待ちくださいませ」
香也子の前に、青年が一人立っていた。背の高い青年だった。青年が微笑を浮かべて、恵理子のほうを見つめていた。香也子は父のほうをふり返った。父は扶代と章子の手を引っ張るようにして、群から離れて行くところだった。
「お父さん」
香也子は無邪気に呼んだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「ねえ、お姉さん」 残ったコップの水を一息に飲んで、香也子はテーブルに片ひじをおき、身を乗り出すようにしていった。

  2. 静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

  3. 「どうした。コーヒーを飲まないのかい」

  4. 「あのう、お姉さま」 凞子の傍らに八重は腰をおろした。

  5. 金井が、香也子の両頬を手で挟んだ。そしてそっと唇を近づけようとした時だった。うしろで、けたたましくクラクションが鳴った。

  6. 母が父と別れたのは、父に女ができたからだと聞かされていた。