あの時よりいちだんと娘らしくなった恵理子が、顔をうつむけて茶を点てている。

あの時よりいちだんと娘らしくなった恵理子が、顔をうつむけて茶を点てている。緋の毛氈が顔に映って、恵理子の顔は幾分バラ色になっていた。
「帰ろう」
あわてて容一は香也子の手をひいた。気づくと、ツネも保子も赤いふくさを帯じめにはさんで、弟子らしい娘たちと談笑している。こちらは扶代と章子をつれている。
(とんだ鉢合わせだ)
何も扶代と章子を、保子に見せつけることはないのだ。が、香也子はいった。
「わたし、お茶をいただきたいの」
「香也子!」
容一はあわてた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「ねえ、お父さん。わたしも勤めたいわ」 「勤める?」 容一の眉間にたてじわが寄る。

  2. 「香也子よ!」 保子は母のツネにささやいた。

  3. 香也子は椅子ごと、ぐいと扶代と章子のほうを向いた。

  4. イタリヤポプラの下までくると、恵理子はポプラの幹によりかかって、まだ真っ白い大雪山を眺めた。

  5. 正客への茶を点て終って、恵理子はいま、次の客への茶を点て終っていた。

  6. ふっと恵理子は時計を見た。もう十二時半だ。川向こうを見る。やはり青年はきていない。と、その時、「恵理子、お電話よ」 と呼ぶ、母の保子の声がした。