容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。そのとき、僅か二、三分だったが、容一は恵理子と言葉をかわした。真珠の首飾りを恵理子に渡しながら、容一は、
「お父さんに用事があるときは、いつでも会社に電話しなさい」
といった。恵理子はうれしそうにうなずいて、傍の保子をふり返った。そのときの恵理子の素直な態度を見て、容一は父親らしい喜びを感じた。が、恵理子から容一に電話がかかってきたことはなかった。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集
容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。そのとき、僅か二、三分だったが、容一は恵理子と言葉をかわした。真珠の首飾りを恵理子に渡しながら、容一は、
「お父さんに用事があるときは、いつでも会社に電話しなさい」
といった。恵理子はうれしそうにうなずいて、傍の保子をふり返った。そのときの恵理子の素直な態度を見て、容一は父親らしい喜びを感じた。が、恵理子から容一に電話がかかってきたことはなかった。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集