容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。

容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。そのとき、僅か二、三分だったが、容一は恵理子と言葉をかわした。真珠の首飾りを恵理子に渡しながら、容一は、
「お父さんに用事があるときは、いつでも会社に電話しなさい」
といった。恵理子はうれしそうにうなずいて、傍の保子をふり返った。そのときの恵理子の素直な態度を見て、容一は父親らしい喜びを感じた。が、恵理子から容一に電話がかかってきたことはなかった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 近づいてきた金井は、小さくクラクションを鳴らした。驚いたように香也子は目を見張り、車から顔を出した金井政夫をみつめた。

  2. 恵理子は焼却炉のそばを離れたかったが、燃えつきるまでそばについているように、常々保子からいわれている。

  3. 「ねえ、お姉さん」 残ったコップの水を一息に飲んで、香也子はテーブルに片ひじをおき、身を乗り出すようにしていった。

  4. 『果て遠き丘』ミニ解説  森下辰衛

  5. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。

  6. 「香也子よ!」 保子は母のツネにささやいた。