容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。

容一は、恵理子の高校の卒業式に扶代にかくれて出席した。そのとき、僅か二、三分だったが、容一は恵理子と言葉をかわした。真珠の首飾りを恵理子に渡しながら、容一は、
「お父さんに用事があるときは、いつでも会社に電話しなさい」
といった。恵理子はうれしそうにうなずいて、傍の保子をふり返った。そのときの恵理子の素直な態度を見て、容一は父親らしい喜びを感じた。が、恵理子から容一に電話がかかってきたことはなかった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. いま思うと、外から帰ってきた父が、洗面所で、

  2. 恵理子は洗面所を出ると、二階の自分の部屋にあがって行った。

  3. 菊天で容一に会った時、容一は保子の指に指輪のないのを見ていった。 「買ってやろうか」

  4. 静かに戸をあける。鈴がリンリンと澄んだ音を立てた。

  5. 恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。

  6. 「あの……」追いついて口ごもった香也子に、青年はふり返った。