「お父さん、あのお点前をしている人……」

「お父さん、あのお点前をしている人……」
父の体がぴくっと動いたのを、香也子は手に感じとった。それまで容一は、茶を飲んでいる客たちをぼんやりと眺めていた。盛りあがるような膝をむき出しにしたミニスカートの娘や、長髪の若者が、かしこまってすわっているのが容一にはおもしろかったのだ。香也子にいわれて、容一ははじめて恵理子に気づいた。恵理子の顔が、容一の場所から斜めに見えた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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