中学に入学するとき、恵理子はセーラー服をつくってもらった。

中学に入学するとき、恵理子はセーラー服をつくってもらった。
香也子は、その入学式当日の朝のことを、はっきりと覚えている。セーラ服を着た恵理子が、
「お母さん!」
と悲鳴をあげた。駆けつけた保子が、ひだにしたがって切られたそのスカートを見て、
「香也子!」
と、香也子を睨んだ。
「なあに」
香也子はスカートを見て、
「まあひどい。どうしたの、そのスカート」
と白ばくれた。が、そのとき、保子と恵理子が自分を見た眼の冷たさは、いまも香也子の胸にはっきりと刻み込まれている。自分が悪かったとしても、あの眼の冷たさは、香也子にとっては、ひど過ぎる刑罰に思われた。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 家人たちが騎馬のけいこをしているのであろう。土塀の外を大声で笑いながら、二、三騎駈けて行く音がした。

  2. 香也子が、本当に生みの母を慕っているかどうか、容一には疑問である。

  3. 「ご機嫌いかがですかな、香也子嬢」

  4. 「どうも、突拍子もない子でねえ。驚いたでしょう、金井君」

  5. クレンジングクリームをガーゼでぬぐい、化粧水をふくませた脱脂綿でごしごし拭いている時、ドアをノックする音が聞こえた。

  6. 「あの……」追いついて口ごもった香也子に、青年はふり返った。