恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。

恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。
「恵理子は、物を大事にするので助かるわ」
そういいながら、母の保子が香也子にセーターを着せてくれたことがあった。そのとき香也子は、そんなことをいう母の保子と、物を大事にする恵理子を、ひどく憎んだ。橋宮の家は、恵理子と香也子の二人だけのきょうだいである。香也子に恵理子のお下がりを着せなければならぬ経済状態ではなかった。が、保子は、さして古くもならないセーターやスカートを、香也子に着せることを当然のことと思っていた。正月や祭り以外には、香也子に新しいものを買うことはなかった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 「混むかねえ、この天気だと」

  2. 若葉となったポプラの木立越しに向こう岸を見た恵理子は、淡い失望を感じて再びミシンの前にすわった。

  3. 二歳年下だが、八重は凞子と時折まちがわれるほどに、背丈も顔かたちもよく似ている。

  4. 容一がそういったとき、幼い頃、散歩に手を引いてくれた父の手の感触が、ふっと思い出された。

  5. 「お母さん、ただいま」 「あら、帰ってきたの」

  6. あの時よりいちだんと娘らしくなった恵理子が、顔をうつむけて茶を点てている。