恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。

恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。恵理子は十三になっていた。中学一年だった。香也子の思い出の中にある恵理子は、とりたてて非難のしようのない姉だった。香也子に帽子を編んでくれたことがある。勉強をみてくれたことがある。スキーにもつれて行ってくれた。一緒にままごと遊びもした。それでいて香也子は、いつも恵理子を不満に思っていた。それは、恵理子が姉であり、自分が妹であるという事実だった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「ハ、ぼくは章子さんのいいように」 と、金井は容一のほうに頭をさげた。その金井に香也子が何かいおうとした時、整がいった。

  2. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。

  3. 「もしもし、お兄さん? わたしよ。香也子よ」 甘い声を香也子は出す。 「ああ、香也子さんですか。いけませんよ、章子さんのそばで電話をしたりしちゃ」

  4. 「ああ、お父さんだ」 のんびりとした容一の声がした。

  5. いま思うと、外から帰ってきた父が、洗面所で、

  6. 恵理子の着ふるしを、香也子はよく着せられた。