恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。

恵理子と別れたのは、香也子が十歳のときだった。恵理子は十三になっていた。中学一年だった。香也子の思い出の中にある恵理子は、とりたてて非難のしようのない姉だった。香也子に帽子を編んでくれたことがある。勉強をみてくれたことがある。スキーにもつれて行ってくれた。一緒にままごと遊びもした。それでいて香也子は、いつも恵理子を不満に思っていた。それは、恵理子が姉であり、自分が妹であるという事実だった。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「香也子、お前、お姉さんに久しぶりで会ったんだろう。まず挨拶をしたらどうだ。怒るのはそのあとでもいい。なあ、恵理子」 「香也ちゃん、しばらくね」

  2. 西に行けば、道は下って三百メートルほどむこうの柏林に突きあたる。香也子は東にむかって歩いて行く。道端のチモシーが雨にぬれて光っているのが目をひく。角の家の藤がいま盛りで、小さな紫の滝のようだ。

  3. 「ご機嫌いかがですかな、香也子嬢」

  4. 五月も十日に近い日曜の午後。

  5. 父の橋宮容一は、後妻の扶代と、そのつれ子の章子を家にいれた。

  6. ほうっと、また溜息をついた時、先程の騎馬であろうか。再び地ひびきを立てて塀の外を駈け過ぎて行った。