それは、数日前、従兄の小山田整から、恵理子のうわさを聞いていたからだ。整は恵理子を、
「理知的で、やさしくてきれいで……」
とほめた。それを聞いたとき、懐かしさよりも、激しい嫉妬を感じた。同じ父と母の子でありながら、姉のほうが優れていることが、香也子にはゆるせなかった。香也子にとって、母は自分を置きざりにして行った冷たい女だった。その母とともに住む恵理子は、同じくゆるし難い存在だった。しかも、小山田整が、恵理子と香也子を比較して、恵理子をほめたことが癎にさわった。
(どんなになったか、見てやろう)
新聞記事を見て、香也子は咄嗟にそう決意した。
三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集