それは、数日前、従兄の小山田整から、恵理子のうわさを聞いていたからだ。

それは、数日前、従兄の小山田整から、恵理子のうわさを聞いていたからだ。整は恵理子を、
「理知的で、やさしくてきれいで……」
とほめた。それを聞いたとき、懐かしさよりも、激しい嫉妬を感じた。同じ父と母の子でありながら、姉のほうが優れていることが、香也子にはゆるせなかった。香也子にとって、母は自分を置きざりにして行った冷たい女だった。その母とともに住む恵理子は、同じくゆるし難い存在だった。しかも、小山田整が、恵理子と香也子を比較して、恵理子をほめたことが癎にさわった。
(どんなになったか、見てやろう)
新聞記事を見て、香也子は咄嗟にそう決意した。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. 「そうね、香也ちゃんのいうとおりね。香也ちゃんをひとりおいて、お母さんとわたし、橋宮の家を出てしまったのですものね」 うるんだ恵理子の声が返ってきた。

  2. 思わず立ちあがった橋宮容一は、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる香也子に、一瞬弱々しい微笑を向けた。が、香也子は、唇をキュッと閉じ、容一と恵理子を無視して、テーブルに近づいてきた。

  3. 「ね、あなた、高砂台はあのあたりかしら」

  4. 恵理子は洗面所を出ると、二階の自分の部屋にあがって行った。

  5. そんな容一に、保子から電話がきた時、容一はわれにもなく心がゆらいだ。

  6. 恵理子は焼却炉のそばを離れたかったが、燃えつきるまでそばについているように、常々保子からいわれている。