香也子は今朝、新聞をひらき、そこに、五、六行の小さな記事を見て胸をとどろかせた。

香也子は今朝、新聞をひらき、そこに、五、六行の小さな記事を見て胸をとどろかせた。それは、藤戸ツネが旭山において野点の会をするという記事だった。藤戸ツネは、香也子の母の母だ。つまり、香也子にとって祖母である。その茶会には、恐らく母の保子も、娘の恵理子もきているにちがいない。香也子は、今日が恵理子に会う機会だと思った。香也子は、保子よりも、姉の恵理子を見たかったのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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