香也子は今朝、新聞をひらき、そこに、五、六行の小さな記事を見て胸をとどろかせた。

香也子は今朝、新聞をひらき、そこに、五、六行の小さな記事を見て胸をとどろかせた。それは、藤戸ツネが旭山において野点の会をするという記事だった。藤戸ツネは、香也子の母の母だ。つまり、香也子にとって祖母である。その茶会には、恐らく母の保子も、娘の恵理子もきているにちがいない。香也子は、今日が恵理子に会う機会だと思った。香也子は、保子よりも、姉の恵理子を見たかったのだ。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. ひとしきり雑談のつづいたあと、言葉が途絶えた。

  2. いつも家の中で洋裁をするか、祖母のお茶の稽古の手伝いをするだけの恵理子の生活は、ほとんど異性に接する機会のない生活だった。

  3. 「馬子にも衣装って、ほんとうね、お父さん」  わざと香也子は無邪気にいう。

  4. 「あら、もう章子さんの彼氏、みえる頃じゃないかしら」

  5. 「お父さん、あのお点前をしている人……」

  6. 「ああ、ああ、いつきてもいい丘だなあ、ここは。こぶしほころび、桜咲きか……」