神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。

神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。桜の幹に「薫風」と墨書された短冊が貼られ、クリーム色の地にみどりの葉を散らしたつけさげを着た娘が、うしろ向きに茶をたてている姿が見えた。
「お茶よ、お父さん」
しっかりと容一の手をとったまま、香也子は人をかきわけるようにして、毛氈に近づく。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

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  1. その次の日も、同じ時刻、向こう岸に青年を見た。

  2. 西に行けば、道は下って三百メートルほどむこうの柏林に突きあたる。香也子は東にむかって歩いて行く。道端のチモシーが雨にぬれて光っているのが目をひく。角の家の藤がいま盛りで、小さな紫の滝のようだ。

  3. 沢を隔てた向かいの山が、日一日と鮮やかな芽吹きを見せてきている。

  4. 「ねえ、今日はそんなのんきな話じゃないのよ」

  5. 同じ日。橋宮容一は、庭のテーブルでコーヒーを飲みながら、

  6. 襖があいた。ふとったおかみが、 「社長さん、焼けぼっくいに火ですか」 と、銚子をテーブルに置いた。