神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。

神社の下の大きな桜の木の下に、赤い毛氈が敷かれ、野点が催されていた。桜の幹に「薫風」と墨書された短冊が貼られ、クリーム色の地にみどりの葉を散らしたつけさげを着た娘が、うしろ向きに茶をたてている姿が見えた。
「お茶よ、お父さん」
しっかりと容一の手をとったまま、香也子は人をかきわけるようにして、毛氈に近づく。

三浦綾子『果て遠き丘』「春の日 六」
『果て遠き丘』小学館電子全集

オーディオライブラリー『果て遠き丘』朗読:七瀬真結

関連記事

  1. 駆けこむように家にはいってから、恵理子は自分の感情の動きにふっと笑い出したくなった。

  2. 「もしもし、お兄さん? わたしよ。香也子よ」 甘い声を香也子は出す。 「ああ、香也子さんですか。いけませんよ、章子さんのそばで電話をしたりしちゃ」

  3. 正式に保子と別れてからは、電話はおろか、葉書一枚きたこともない。

  4. いつも家の中で洋裁をするか、祖母のお茶の稽古の手伝いをするだけの恵理子の生活は、ほとんど異性に接する機会のない生活だった。

  5. 章子は立ちあがって、 「あ、香也ちゃん、すみません」 と、盆を受けとろうとした。

  6. それにしても、女の命は見目形であろうか